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「アヤカシ子」 2

 物陰で水着に着替えて、交代でスイカのお守りに浜に残り、交代で海へ入ろうか、と考えたところで、面倒くさくなった。
「先にスイカ割りしちゃう?」
 イズナは、姉に提案してみる。
「うん!」
 砂を集めて小山をつくり、スイカを据える。
 スイカは買ったけれど、目隠しは持って来忘れた。タオルをくるりと頭に巻き、後ろを髪留めで止めたけれど、今にも落ちそうだ。
「これが落ちるまでに、仕留める!」
「仕留めるっていう?、スイカを」
 二人で笑いころげ、こっち、こっち、と姉が呼ぶ方向に木刀を向ける。
「ちょっと前、ちょっと右、それくらい」
 ナズナの誘導がいいのか、イズナのカンがいいのか、2度ほど木刀を振るっただけで、スイカはあっけなく割れた。二人並んで、かぶりつく。
「甘いねえ」
 夏の日差しのなかを抱えてきたスイカは、少し生あたたかいのだけれど、乾いた喉に甘味がしみる。
 ふと、目を上げると。少し離れたところから、男の子が二人のほうを向いている。傍らに小さな女の子がいて。とことこっと駆けてきた。……ミユ、だ。ヒワダの妹の。
 数歩先で立ち止まり、じっと二人を見ている。
「スイカ、いる?」
 ナズナが声をかけてから、いいよね、と、イズナの横顔を確認した。イズナは、ぱちり、と、大きく瞬きして、いいよ、と、伝える。
 さしだされた一カケを、ミユは受け取って。
「あの。おにいちゃんのもくれますか」
 小さな声でいった。
「ずっと、ミユをおんぶしてきてくれたの」
「いいよ」
 今度はイズナが返事をして、割れたスイカの一片を差し出す。
「ありがとう!」
 ミユは、砂の上、転んではいけないと気をつけるそぶりで、戻っていく。
「そろそろ、一月くらい?」
 ナズナが小さく言った。
「うん。それくらいじゃないかな」
 ヒワダとミユの両親は、1ケ月ほど前に行方不明になり、数日後、喰い散らかされた無残な死体が見つかった。服やなにやから、警察はそれがヒワダたちの両親だと断定した。
 そして、町の噂では。殺したのは妖魔……アヤカシだと。アヤカシに、喰われたのだと。
 それまで、イズナを普通に同級生として対していたヒワダが、ナズナとイズナを避けるようになったのは、その日からのことだ。
 遠目に。ミユがヒワダにスイカを渡すが見えた。ヒワダがそれを浜に叩きつけるのも。ミユがそれに手を伸ばす。ヒワダがスイカを、海へ向かって蹴り上げる。ミユがうつむいた。
「海、入ろうか」
「うん。準備体操!」
 わざと明るく声をあげて、イズナは視線を兄妹からひきはがし、身体を動かし始めた。
 関節を回したり、伸ばしたりして、身体をほぐす。ようやく波に身体をひたした。
 泳げるナズナは、先に泳ぎ始める。
 イズナは浮くだけ浮くのだが、ばたばたもがいても、ほとんど前に進まない。
 何度も、浮いてはもがき、浮いてはもがき、立ち上がってナズナを見て、
「足を伸ばすのか」
「肘も」
などとぶつぶつ言ってはまた浮いて、身体を動かしてみる。すいーっと前に進んだ。できるだけ同じに、動きを繰り返す。自分で自分の動きを憶えたと確信してから、立ち上がった。ナズナは泳ぎながらも、横目でイズナを見ていたらしい、続けて立った。
「おねーちゃーん!できた!」
 ナズナは声を上げて手を振る。
「おめでとー!」
 そこから先は、泳げるようになったのが嬉しくて、夢中だった。足の立たない深さの場所まで泳いでも、ちゃんと戻ってくることができた。
「これで、磯でも泳げる!」
 祖父母に見せれば、許しがもらえるだろう。
 ふと、肌寒さを感じて、空を仰ぐ。いつのまにか、雲が出て、日が翳っていた。
「イズナ!、そろそろ上がろう!」
 ナズナの声にしぶしぶ浜をめがけて泳いでいるその最中に。ザン、と音をたてて雨が降り出した。夕立だ。
「ひゃっほー!」
 浜に上がり、塩気を流せとばかり両手を広げる。
 枝をはった松の下に避難したナズナは、「何をやっているの!」とでも言っているのだろう。口にメガホンの形に手をあてているけれど、雨の音でほとんど聞こえない。
 イズナは少し足速になって、松の枝の下に入った。
 ナズナは手早く、服やタオルを雨から避けていたらしい。乾いたタオルを差し出してくれた。イズナはありがたくそれを受け取った。とりあえず髪から拭いて、湿ったタオルで身体も拭きあげる。互いにタオルで隠しあいながら、元の服に着替えた。
 枝の間から雨の様子を見ているうちに、ミユが木の下に入ってきた。
「あの……、いっしょに雨やどりして、いいですか」
「どうぞー」
 イズナはわざと陽気に答え、
「おにいちゃんは?」
「おにいちゃんは、雨で遊ぶんだって」
 ミユは、しゅん、として答える。
「ミユは風邪ひくから、だめだって」
「そっか」
 ヒワダは、単に、イズナ・ナズナと一緒に雨宿りをしたくないのだろう。
「他の人たちはどうしたかな」
 浜にはほかにも、遊んでいる子供や、つきそいの大人がいたはずだ。
「もう引き上げた人もいるけど。峠で雨だと大変かもね、滑るし」
「ごめん、私、遊びすぎた?」
「うううん、こんな降るとは思わないもん」
 松の根元に寄りかかっていると、遊び疲れた体に眠気が来たのだろう。ミユの瞼は今にも落ちそうだ。
「いいよ、寝なよ」
 松葉を集めた上に湿気たタオルを敷いたら、素直にその上に丸くなる。寝息を立て始めるのを見ていたら、イズナも眠くなってきた。松の根元で、姉の肩にもたれる。ナズナのほうも、イズナに少し体重をかけてきた。そこまで意識して、すーっと眠りに引き込まれていった。
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